2017年3月4日土曜日

【小説】浪花相場師伝 第二十ニ話 実王寺との再会(後編)

第二十ニ話 実王寺との再会(後編)

淀屋の家へ招かれた実王寺は家の中を見回していた。
「何や、じろじろ見とらんと、その辺に座ってや」淀屋がいう。
淀屋の家は、以前に来たときと一変していた。
家電や家具は必要、最低限のものしか置いていなかった。

居間である和室の中央には机があり、デスクトップのPCが置かれていた。
押入れの襖はなく、押入れの中には何百冊もの書籍が並んでいた。
「ずいぶん変わったな」、近くにあった椅子に腰掛けながら実王寺がいう。
「何事もシンプルイズベストやさかいな」、淀屋がいう。

淀屋がカップに入ったインスタントコーヒーを運んできた。
「たいしたもんやないけど」、淀屋が実王寺にカップを手渡す。
「ありがとう」、実王寺はカップを受け取りコーヒーを飲んだ。
「美味いな」、実王寺が感心していう。

「美味いやろ、インスタントコーヒーも淹れ方次第で美味くなるんや。
ところで何を伝えにきたんか、教えてんか」、淀屋がいう。
「来月、淀屋の一族の会合がある。
そこで君の存在を一族に知らせたいと考えている」、実王寺がいう。

「なんで来月、知らせるんや」、淀屋がいう。
「君が初代本家だとは知らせない。
あくまでも分家の1人として知らせるつもりだ。
君に淀屋の一族を知ってもらうことが目的だよ」、実王寺がいう。

「別にかまへんけど、実王寺さんが紹介してくれるんか」、淀屋がいう。
「残念ながら私ではない、紹介するのは初代本家の者だ」、実王寺がいう。
「ひょっとして実王寺さんは淀屋の一族やないんか」、淀屋がいう。
「そうだ、私は淀屋の一族ではない」、実王寺がいう。

「なら、なんでワテにいろいろしてくれるんや」、淀屋がいう。
実王寺はカップを持ったまま、しばらく黙り込んだ。
やがて実王寺がおもむろに口を開いた。
「私と君の母親が特別な関係にあったからだよ」

淀屋は飲みかけていたコーヒーを噴き出した。
「行儀が悪いな」、実王寺が苦笑しながらいう。
「ちょ、ちょ、それってどういうことやねん。
特別な関係って、どういう関係やってん」、淀屋が聞く。